JGSSプロジェクトの発展
JGSSプロジェクトの活動はこれまでに高く評価されており、2003年11月には、財団法人日本統計協会から「統計活動奨励賞」を授与された。また、1999~2008年度は文部科学省の「学術フロンティア推進拠点」として、2008年6月からは、同省が認定する共同研究拠点として、プロジェクトを継続している。JGSSプロジェクトは、プロジェクトの進展のなかで当初の目標を超えて発展を続けている。これまでになされてきた、あるいは現在進行中の主な試みは、以下のように広範にわたっている。
調査方法の検討
JGSSプロジェクトでは、プロジェクトの発足当初の1999年に、調査項目と調査方法論上の問題を検討するため、2回の予備調査を行っている。その後も小規模な予備調査で調査方法上の問題を幾度となく検討している。また、調査への協力が得られず欠票とせざるをえなかったケースについても、その状況を欠票調査票という形で情報収集し、協力状況の向上のために役立てている。このように、このプロジェクトでは調査方法上の問題を検討することにも力を入れている。
研究課題の公募・分析研究課題の公募
本プロジェクトでは、2005年度の調査以降、国内外の研究者および大学院生から、設問の一部を公募している。共同利用・共同研究拠点に採択された2008年6月以降は、研究課題の公募、および、分析研究課題の公募を開始した。研究課題の公募とは、調査項目作成の段階から研究テーマを温めている国内外の研究者にアイデアを応募してもらう形式の公募である。分析研究課題の公募とは、実査終了後に研究課題の公募で生かし切れていない調査項目の分析アイデアを応募してもらう形式の公募である。アイデアはあるけれども、全国調査に参加する機会のない研究者(特に若手研究者)の参加を得て、JGSSの調査票および研究成果をさらに充実させることを目指している。
論文の公募・表彰
JGSSプロジェクトでは、2003年から毎年、JGSSデータを用いた論文を公募し、優秀な論文の表彰を行っている。公開されているデータの利用を促進するとともに、優秀な研究成果を発掘する狙いがある。2013年までに23本の論文を表彰している。
若手研究者の育成
JGSSは短い間隔で調査が繰り返されているので、若手研究者が実際の全国調査を経験する機会を豊富に提供できる。そこで、JGSSプロジェクトでは、研究課題の公募、分析研究課題の公募、論文の公募、その他の機会を活用して積極的に若手研究者の育成に努めてきた。2005年度からは、その試みを「JGSS調査研究奨励プログラム」として制度化し、若手研究者の育成を強化している。2013年4月現在、21人の大学院生がこのプログラムを修了し、2人の大学院生がこのプログラムに参加している。また、2005年度からは、ポストドクトラル研究員を採用し、調査の企画・設計、実施、データ解析、論文執筆という一連のプロセスに参加し、全国調査ならびに国際比較調査に必要な技能と知識を磨いている。現在主任研究員1名とポストドクトラル研究員1名となっている。
個人情報保護の強化
JGSSプロジェクトでは、当初から個人情報の保護には細心の注意を払ってきた。例えば、データの公開にあたっては、個人や家族が決して特定されないように、居住地域の情報を除外し、ケースの並び順をばらばらにするなどの工夫をしている。2005年4月の個人情報保護法の施行を受け、さらに注意を強化している。また、さらに踏み込んで、社会調査の実施と個人情報の保護を両立するため、調査対象者の抽出方法や調査の依頼方法についても研究を重ねている。
累積データセットの作成
JGSSは継続調査であるため時系列的な分析が可能である。時系列的な分析を促進するために、第1期の調査データ(JGSS-2000,2001,2002,2003)を一括して分析でき、利便性が高い「JGSS累積データ2000-2003」を作成し、公開している。今後は、JGSS-2000~2010の10年間の調査の累積データの公開を目指す。
ウェブ上のリモート集計
JGSSのデータを寄託している東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブでは、2005年10月からウェブ上でデータの簡単な集計を行うことができるリモート集計システムを導入している。JGSSデータもリモート集計が可能となっており、大学に所属する研究者や学生は、オンラインで、単純集計、相関、クロス表分析、t-検定のプログラムを用いて、JGSSのデータを分析することができる。リモート集計は、特に教育の場面で有効に活用されている。
社会ネットワークの調査
2003年度に行った調査(JGSS-2003)では、調査対象者を二等分して別々の調査を行った。一方の人々にはこれまでの調査との継続性が強い調査を行い、もう一方の人々に対しては、他人との交流の程度や内容を詳しく尋ねる社会ネットワークの調査を行った。このような社会ネットワークの調査は単独でも非常に貴重なもので、そのデータが公開されることで多くの研究に役立っている。
国際的な利用の促進
JSSSデータは当初日本語のみで利用が可能であったが、国際的な利用の必要性を満たすため、データおよび調査資料の英訳が進められた。現在では、日本語版と英語版のデータが同時に公開されている。また、データの配布を依頼するデータアーカイブは、当初、東京大学社会科学研究所のSSJデータアーカイブのみであったが、現在ではアメリカ(ICPSR: Inter-university Consortium for Political and Social Research)とドイツ(GESIS: German Social Science Infrastructure Services)のデータアーカイブからも利用できるようになっている。2021年3月現在、ICPSRとGESISを通じたJGSSデータのダウンロード件数はのべ約34,000件にのぼる。
東アジアの国際比較調査
JGSSプロジェクトでは、2006年の調査から、東アジアの複数の国・地域で国際比較調査を行うEASS(East Asian Social Survey)プロジェクトに参加している。EASSプロジェクトは、各国・地域ですでに行われている継続調査の調査票の中に、共通の設問をモジュールとして組み入れることで国際比較を行おうとする試みである。JGSSでは、2006年~2012年は、調査対象者を二等分して、留置調査票を2種類(A票とB票)作成し、留置調査票B票にEASSのモジュールを組み込み、2015年以降は留置票にEASSモジュールを組み込んでいる。 |